漆工豆辞典

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漆工豆辞典

はじめに:この豆知識は高岡の地場で育まれた漆工芸について掲載しています。
     積極的に御活用されますようお願いいたします。

 

■豆知識 その1

●漆の木と分布
漆の木は、世界中に約600種以上もあるといわれており、その大部分は東南アジアに多く分布しています。
漆の木は、高さ十数メートル、太さは40センチにもなる落葉樹で、5月から6月にかけて黄緑色の香り高い小花を咲かせ、秋には美しく紅葉します。 樹皮は灰白色で、その樹皮に傷をつけて「生漆」を採取します。日本国内で採れる「漆」は上質であり非常に高価です。
日本産の漆樹は、北は北海道から南は九州、古くは沖縄地方にも産し、日本全国に分布していますが、現在では東北地方が主産地となっています。
中国産の漆樹は、湖北省、四川省、陜西省、湖南省、貴州省などの山々が重要栽培地で、これらの山地から生産される漆は、主な産地名を付されたものが品名となっています。
ベトナム産は、北ベトナム地方のものをさし、トンキン漆、アンナン漆ともいわれています。
トンキン州を中心とし、ブートー、永場、山西、宣光などの熱帯地方に属し、中国の漆同様に生産名が品名となっています。
 

■豆知識 その2

●漆樹が塗料になるまで
幹や枝が傷つけられると、傷口をふさごうとして噴き出す液を集め精製し、塗料としたものが漆です。
採取したままの天然の漆液を「アラミ」といい、不純物を濾過した漆液を生漆(きうるし)といいます。
これを太陽熱か炭火で水分を蒸発させながら、ゆっくりと混ぜ光沢が出てアメ色の半透明の油状にしたものを透明漆、木地呂漆と呼んでいます。
漆は、採った場所や時期、採り方によって質が異なります。
仕上げの上塗りに使うためには精製・加工が必要で、この作業が「くろめ」や「なやし」とよばれます。この透明漆に適当量の顔料を加えると色漆になります。
 

■豆知識 その3

●漆の黒
精製前の漆に鉄を入れるとウルシオールが鉄と反応し、漆そのものが真っ黒になる作用を利用して黒漆を作ります。
生漆に鉄粉を加え、「くろめ」や「なやし」作業を行い、深みやつや、味わい、そして独特の耐久力のある漆に仕上げます。
しかし、精製してしまった漆に鉄を加えても、濃い黒にはなりません。水分が含まれていた方が、鉄とウルシオールの反応が進みやすいからです。
 

■豆知識 その4

●漆樹の特質
漆の成分の8割はウルシオールで、残りはゴム質、酵素、水分です。ウルシオールは漆の特殊な乾き方や堅牢な表面を作る作用を持つ他、かぶれの現象などの主因となっています。
梅雨時期が、漆は一番乾きやすく(漆が硬化するのに温度(25℃)と湿度(85%)が必要)、冬期間の11月〜3月頃迄は乾きが悪くなります。
漆が「乾く」とは、漆が多量の酸素を吸入し、酸化作用によって液体から固体に変化するということで、水分を蒸発させる乾きとは全く異ります。
漆に適当な湿気を与えると、水分が蒸発し、漆の酸化作用を促進させて乾きを早めるのです。
また漆は一度乾いてしまうと実に強靱になり、手軽には溶けなくなります。アルカリ、酸、塩分、水分に強いのですが、紫外線に当てると、他の塗料同様に抵抗力が弱くなり劣化します。

漆は、漆の木から採取される樹液で、天然の高分子化合物です。
化学的にはフェノール系の天然樹脂で、日本語的に言うと、石炭酸性脂の一種になります。 防腐剤のクレゾールなどと同類と言えます。
 弱い体質の方が漆にかぶれるのは、フェノール系の物質が、皮膚のタンパク質に反応して起こるアレルギー現象です。したがって、漆にかぶれる方はクレゾールもかぶれるはずです。
 主成分はウルシオールと言われる油です。この油の中に水が分散し、乳液状になったものが漆です。化学的には乳化重合体と言い、聞きなれた言い方ではエマルジョンとも言います。
 漆の硬化する過程は、牛乳が乾燥し半透明の硬い皮膜になる事と、物理的には同じですが、漆の場合少量のラッカーゼという酵素が、漆の硬化に深く関わっています。この酵素が、空気中の水分から酸素を取り込み、酸化重合を促進し、硬い皮膜をつくります。
 この酵素が活発になる条件で、お米を発酵させお酒にする酵素の場合と同じ様に、カビの発生しやすい環境が漆の硬化に最適とも言えます。
 酵素は生き物なので高温にすると死んでしまい、加熱した漆は常温では硬化しなくなりますが、150℃くらいに加熱すると硬化します。これは、熱硬化性プラスチックのフェノール樹脂を金型で加熱する事で硬化成型する事と同じ現象で、昔は鉄砲や大砲、鉄鍋などに、錆び止めとして行われていました。
 漆は、酸やアルカリ、塩分、アルコール等に対しての耐薬性や防水、防腐性もあります。また、電気に対する絶縁性も持っています。
 漆の樹から採取された状態を〔原料生漆〕とよびます。これを精製したものを〔精製生漆〕と呼びます。 精製生漆を用途に合わせて次の3つの種類に加工されます。
  "生漆"〔きうるし〕"透漆"〔すきうるし〕"黒漆"〔ろうるし〕、色のあざやかな漆は、透漆から作られる"朱合い漆"〔しゅあいうるし〕をベースに色々な顔料を加えて作られます
 漆は、浸透力が有りその塗膜が乾固しても、なかで酵素が生き続けています。表面の色艶が褐色から徐々に透明感を増し、美しい色合いへあざやかに変化していきます。これは、千利休が求めていた美の世界〔わび〕、〔さび〕、に通じるものがあります。
 数千年も前から食器類をはじめとする日用品や、船舶、建築物等に塗料として広範囲に利用されてきました。 そのルーツを辿ると、なんと足長蜂にたどり着くのです。
 足長蜂の巣の付け根の部分に黒いものが固まっているのが漆です。
 自然の中で蜂が本能的にそのことを知っているのでしょうか。それを知った人類が、狩猟の時に使う、やじりの取り付け部分に、やはり接着剤として利用したのが人間と漆の出会いの始まりと言われています。その後、食文化と共に発展をしてきた訳です。
 漆と漆の技法は、大陸の仏教文化や食文化と共にシルクロードを経て日本に伝えられました 。正倉院の宝物や、法隆寺の宝物にそれを窺知することができます。  このように漆とその技法は、日本の文化と共に美しさを求め続けて発達し、現在に伝えられてきたものです。
 うるしは「うるおう」とか言われています。漆の艶や塗り肌を表現したものでしょう。日本の永い歴史の中で漆が愛され続けられたことが言葉の中に残されています。
 知れば知るほどに不思議で奥の深い漆は、自然の天然素材で地球環境にやさしい無公害の塗料です。

 

 

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